孤独の感覚

孤独の感覚

5月だってのになんだか寒い、ブリュッセル。
今週、日本語の授業で生徒さんから熱烈なリクエストを受けて日本の詩についてレクチャーをいたしました。
んが、ワタクシ、詩より断然小説派なんであまり詩には詳しくないというのが実情でして(汗)。まあ一応国文科卒なんでそれなりに詩についてお勉強はしたんですが、掘り下げるというところまではしておりませんでね・・・。
そんなわけで今の日本で一番有名な詩人は誰であろうと考えたらやっぱりこの方


谷川俊太郎ざんすね〜。
ワタクシの最初の谷川俊太郎の詩、というか本との出会いは翻訳されたばかりだった「マザーグースのうた」でしたかね。今でも実家にありますが、それはそれは大事にしていたんですが、Seanが小さい頃に読ませてたら表紙をビリビリとやられてからというもの(泣)これは小さいうちは触らせちゃなんねえとそのまま読ませずに終わっちゃったっていう残念な思い出が。

あとはスヌーピーでおなじみのピーナッツの漫画ですね。ワタクシ子供の頃スヌーピーが大好きでコミックスを全部持ってました(実家にあったあの漫画は一体どこにいっちゃったんだろうか)。
さて、谷川俊太郎さんの一番有名な詩はなんであろうかと考えた時にやっぱりデビュー作の「二十億光年の孤独」であろうと授業の準備を。

一応フランス語訳はないかと調べてみたんだけど見つからず。仕方ないので谷川俊太郎さんの英訳を一手に引き受けているというWilliam I. Elliotの訳をGoogle翻訳にぶち込んでフランス語訳にしたのを使うことに。しかしね、このGoogle翻訳先生、いつもトンチンカンな訳しかしてくれないんでいまいち心配ではあったんですが、英語からフランス語訳は割とちゃんと仕事してくれるんでまあこれで良かろう、文章も難しくないし短いし、ってことで早速授業で朗読いたしました。
まずは原文を

二十億光年の孤独   谷川俊太郎

人類は小さな球の上で
眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする

火星人は小さな球の上で
何をしてるか 僕は知らない
(或いは ネリリし キルルし ハララしているか)
しかしときどき地球に仲間を欲しがったりする
それはまったくたしかなことだ

万有引力とは
ひき合う孤独の力である

宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う

宇宙はどんどん膨らんでゆく
それ故みんなは不安である

二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした

そしてコチラが英訳

Two Billion Light -Years of Solitude

Human beings on this small orb
sleep, waken and work, and sometimes
wish for friends on Mars.
I’ve no notion
what Martians do on their small orb
( neririing or kiruruing or hararaing ).
But sometimes they like to have friends on Earth.
No doubt about that.
Universal gravitation is the power of solitudes
pulling each other.
Because the universe is distorted,
we all seek for one another.
Because the universe goes on expanding,
we are all uneasy.
With the chill of two billion light-years of solitude,
I suddenly sneezed.

いや〜ワタクシ火星人が「ネリリし キルルし ハララしている」ってのを英語にどうやって変換するのかしらと思ってたら-ing形で乗り切ったみたいざんすね(笑)。
最初に日本語の原文を読んだんですが、生徒さん達当然よく分かんな〜い状態。ううむもうちょっといくつかの単語は聞き取れるかと思ったんですがね〜。続いて英語訳を読んでみたら流石に「ほほ〜」とか「ふ〜ん」とか最後の「くしゃみをした」のところでは笑いが起こったりで気に入った様子。
彼らは結構インテレクチュアルな夫婦で、特に奥さんの方のインテリ度が高くて、とりわけ詩が好きらしく興味津々で英語訳を読んでる時にも一生懸命メモを取っていて「韻は踏んでないみたい」と早速コメント。
確かに欧米の詩は脚韻を踏むのが割と一般的なんで、日本の詩は韻を踏まない(またはほとんど踏まない)のは珍しかったみたいですね。ワタクシも脚韻を踏まないというのはなんとなく認識してはいたものの、読んでると語尾がです・ます・た・だで終われば自然と韻を踏んでるように思えるんで特に気にしてなかったんで良い勉強になりました。
で、この彼らが思わず笑っちゃったくしゃみの部分。
彼らが笑っちゃった理由っていうのがどうしてここでくしゃみが出てくるんだろうっていう不思議さからなんですが。
実は英語訳を見るとWith the chill ofとあるんですが、勿論この部分は原文にはないのである。確かにここでどうしてくしゃみなんだろうな〜とは日本人でも思うんだろうが、ここで原文に手を入れるというのはどうなんだろう。訳者の彼としてはここで何かくしゃみをする理由を入れないと読者が分かんないから敢えて寒いという言葉を足したんじゃないかというのは想像に難くない。でもこういうのを入れちゃうと解釈を読者に委ねるっていうのを奪っちゃうんじゃないかな〜と思ったりでちょっと残念。
とある方の解説ではこのくしゃみは遠い火星かまたはどこかの星の生命体が噂をしていてくしゃみが出ちゃったんじゃないかという生徒さんのコメントを取り上げてましたが、そうかそういう考え方もありだな〜と思わず膝を叩いちゃったワタクシざんす。ワタクシ的にはこのくしゃみは孤独を感じるとなんとなく薄ら寒くなるっていうか孤独=寒いっていう連想からくしゃみが出たんじゃないかと思ったんですがね。となると、この感覚は訳者も同じように考えて思わずWith the chill ofを付け足しちゃったのかな〜と思ったり。
実際谷川俊太郎さんがこの詩に関して近年インタビューを受けた時に、この詩を書いたときはまだ10代と若くて宇宙のとてつもない広さを考えていたらもうこれはくしゃみするしかないんじゃないかと思った、と答えていらして、はは〜実際はそんなもんなんだね〜と思わずクスッとしちゃいました。
そこで、この「孤独」で寒さを感じるという説明をしたところ、ワタクシの生徒さんたちは全くピンと来なかったみたいなんですね。「孤独でどうして寒さを感じるの?」という点でちょっとした議論に発展したのでありました。つまり、彼らはこのWith the chill ofで言葉通りの寒いからくしゃみが出たと思ったということで、寒さは孤独と結びつかなかったと。
彼らにしてみると「孤独:solitude(英語でもフランス語でも同じスペル)」には孤立しているという意識はないらしく、精神的な部分でのsolitudeだと言うんですね。
日本人だと老人の孤独死とかいじめでクラスからのけものにされてひとりぼっちになる孤独感というような状況であったり肉体的な孤独、つまりぼっちの感覚はsolitudeにはないと。だから孤独による自分の周りに漂う寂寥感やぬくもりが欠如する寒さはないというわけ。彼らにとっての孤独のイメージは暗闇の中にいる感覚なんだそうな。ふ〜ん。
彼らはフランス語圏の人たちはそういう風(ワタクシが説明したイメージ)には思わないですよ、と言ってたけど、あとでPaulに聞いてみたら彼は孤独から寒く感じると言うのは理解できると言ってたんで、同じフランス語圏の人間でも人によって解釈は違うってことざんすね。
このコロナ禍で引きこもりになって孤独感に苛まれて自殺する人が増えたなんていう話を聞くにつけ、世界のどこかで心の寒さを感じてる人がいるんだろうなと思うワタクシざんす。
それにしても、日本語の詩を訳すのって難しいよな〜と思いましたわ。だってニュアンスが伝わらないし、日本人だったらうんうんわかると思うところも文化的な違いがあって通じない部分があったりするんで。やっぱりこのさい日本語で読めるように頑張ってもらうのが一番なんじゃないかと(無理だろうな〜・汗)。

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Comments:2

  1. 感覚のズレはありますね〜。特に詩は短い文に色々と意味が凝縮されてるだけに難しいんじゃないかと。

  2. あぁ、詩を外国語に訳すって大変ですよねー!
    言葉そのものを約したところでその言葉の持つ意味やニュアンスが
    少し違うのでズレを感じますよね。。
    なるほど、孤独か・・・
    それで言うと私も実はsolitudeど聞いても心のぼっち感はあるけれど
    肉体的って感覚にはならないですね。。isolé と言われるとなんかポツーン
    って気にはなっちゃいますが(涙)

    最近は雨にも負けず・・・が観返した北の国からの影響を受けてじーんと
    来てました。

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